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若狭路 歴史と食 冬
今回の旅人:小泉武夫(東京農業大学教授)
へしこ写真
食欲不振の時の特効薬へしこ漬けで元気回復

 姿のまま臓物を除き、よく洗って水気を切る。食塩を振り掛けて3時間ぐらい桶に漬け込んでから取り出す。別の桶に塩と赤糠を合わせ、そこに米のとぎ汁 を加えて練った漬け床を作り、その塩魚を漬け込んでいき、上から重しをかける。一夜たち、上がってきた汁を取り去り、こうして以後は食べる時まで発酵、熟成、貯蔵しておくわけだ。
  糠を落としてから軽く焼き、酒の肴や飯のおかずにしてよく、また、薄切りしたものを酢や酒、みりんなどに浸してから食うのもうまい。
  私の大好物は何といってもサバのへしこだ。30センチは優にあろうと思われるサバの糠漬けを見ただけで、よだれが出始め、糠を除いて軽く焼いたものの焼き上がり加減を見、煙に混じって出てくるにおいを鼻でかぐ時にはもう、よだれが滝のようにドウドウと出て止まらない。焼いたサバのへしこを大きな皿の上にデンと一匹のせ、脇に熱い飯を寄り添わせて、それをしばらく眺めているだけでも、驚くほどの食欲がわきあがる。

30cmは優にあるサバを糠漬けにした、若狭名物へしこ
へしこと言えば、断然”若狭”ものが一番

 そのサバのへしこに著をつけて、少し皮が焦げて溶けた脂肪と一体となったあたりをむしり取り、それを飯の上に上げて食う。あとは何も申しませんが、ただただ超美味。へしこ漬けは塩っぱいので、ほんの少々で飯は何杯でも食える。残ったへしこはそのままとっておき、次の食事にまた出して楽しめる。お茶漬けにしても腰が抜けるほどうまい。
  そのへしこといえば、誰が何を言おうと断然「若狭」ものである。へしこと同じで、糠みそに魚を湧け込んだ「米糠漬け」は福岡県のイワシ漬け、和歌山県のサンマ漬け、北海道や青森のニシン漬け、その他全国津津浦浦にある。
 それは、日本人が昔から米を食べている米食民族で、その米の玄米を擦って白米にするとき必ず糠が出ることと、この国は周囲を海に囲まれて、魚の豊富な国であるために、全国で昔から普及してきた魚の食法である。糠みそに漬けて発酵させることから、保存も効き、冷蔵庫などのなかった昔の時代には正に中心的な魚の保存食品であった。
  このように、全一国各地でへしこ又は米糠漬けが造られているが、吾が輩がなぜ若狭のものを愛好するかというと、先ず原料となる魚がすばらしいことである。
  越前海岸は、その沖合で対馬海流とリマン海流とがぶつかり合うところで、四季にはそれぞれにとても美味しい魚介類が捕れる。第二は、「自然の穀倉」といわれる福井平野の美味しい米からの糠に漬け込むために、実に味わい深いものになっているからである。
  とりわけサバやイカ、ブリなどは、その美味さが全国的に知れ渡っている地域だから不味い筈はない。従って昔から、若狭には伝統的なへしこ文化があって、他の県とは一線を画すほどの深さがある。

対馬海流とリマン海流がぶつかり合い、豊富な魚介に恵まれる越前海岸
小泉武夫教授

こいずみたけお/
東京農業大学教授(醸造学・食文化論)。鹿児島大学客員教授、NHK国際放送番組審議会委員などを務める。『食と日本人の知恵』(岩波書店)など単著90冊

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若狭湾観光連盟